世界のフィギュア界を引っ張り続けてきた羽生結弦選手(27)が、競技生活にピリオドを打ちました。
◆羽生結弦選手が会見を開いたホテルで、松岡修造さんが聞きます。
松岡修造さん:「決意表明が1時間ありました。思いが伝わってきたんですよ。ただ、いつもの羽生さんじゃないと僕は思った。すごい緊張しているというか。思いがそれだけ強かったのかなと思いました」
羽生結弦選手:「緊張はしました。実際、どのように受け取って頂けるのかも分からないですし、そもそも自分が現在思い描いている、いわゆる“引退”という言葉・イメージに対して、かなり違ったイメージを持ちながら、今回の記者会見に挑ませていただいたので、それを本当に伝えきれるのかなっていう不安もありました」
松岡修造さん:「今までのインタビューをずっと振り返ってきて、勝負にこだわる羽生さんが、僕はすごい好きなんです」
羽生結弦選手(2017年):「僕の原点っていうか、心の奥底にあるのって、絶対勝ち負けなんですよ。何のためにスケートをやってるかって言われたら、勝ちたいから」
羽生結弦選手(2019年):「僕自身このスケートっていうスポーツをやっていくにあたって、本当に生活の一つひとつ全てを切り刻んで突き詰めて、スケートのためだけに全部結晶化させる。そこで負けるっていうのは、ものすごくつらいこと」
松岡修造さん:「僕は羽生さんからこういう思いを聞いているだけに、今回、勝負の舞台から下りたんだと捉えていいんでしょうか」
羽生結弦選手:「むしろ勝負の舞台から、次の舞台に上がったって僕は思っているので、ある意味“引退”という言葉にもありますけど、これまでのいわゆるアマチュアスケーターからプロスケーターへという道とは全然違った気持ちでいていただけたら、僕はうれしいなって思っています。そういう意味ではむしろ、これからもその場で比較して評価を競うものではなくなるかもしれませんが、常に過去の自分と戦いながら『もっと今うまいぞ』っていうことを見せながら、皆さんとの期待とも戦いながら、もっともっとそこに立っていくんだっていう強い意志でこれからやっていきたいと思っています」
松岡修造さん:「周りとの競いという所が違うと考えると、僕のなかでは2015年の『SEIMEI』。まさに勝負勘がすごかった。ノーミス・パーフェクト。この時の自分の勝負勘はどう捉えていますか」
羽生結弦選手:「正直この時、若干かぜひいてて」
松岡修造さん:「は!?」
羽生結弦選手:「そうなんですよ。連戦でかぜひいちゃってて、めちゃくちゃ身体しんどかったんですよね。ただ、この時に思ったのは、精神と肉体のバランスが上手く取れれば、絶対にノーミスでできるという感じのことは多分言っていたと思うんですけど。勝ちたいよりも、ノーミスしたいよりも、一生懸命やり切れみたいな感じでやれてたんですよね。やっぱり、そこのなかには、皆さんが期待して下さった気持ちだとか、皆さんが思い描いてくださった、たくさんの演技たちであったりとか、そういったものがあったおかげで、僕はこの演技がやり切れたなと思います」
松岡修造さん:「そう考えると、勝負って周りと戦っているものとは違ったということですか」
羽生結弦選手:「もうこの時はあまり戦ってなかったかもしれないですね。むしろこの時が一番、過去の自分が怖い時期でした」
松岡修造さん:「どういうことですか?」
羽生結弦選手:「その前の試合で初めて300点というものを超えて、そこからすぐにまた試合があって。正直、身体がそんなに簡単に保つものではないですし、正直言って僕がショートプログラムとフリープログラムと両方ともノーミスしきれるっていうことがほとんどなかったので。スケーターにとって人生で何回あるかって言われたら、数えられないくらいなのかもしれないですけど。僕には本当に数えるほどしかなかったので。やっぱり緊張感も強かったですし、どうやってその前の試合の自分に勝つかみたいなことばっかり考えていたような気がします」
松岡修造さん:「羽生さんに対して聞くのは失礼かもしれないですけど、やっぱり僕アスリートだから。1つのステージを終えると考えた時に『限界』という言葉が僕の中にもあった。身体の限界って考えたら、足首も含めてたくさんあったと思う。その限界はどう今回捉えていたのかな」
羽生結弦選手:「多分、テニスで捉えたら、これは“プロが引退”ではないんですよ。テニスに例えたら、やっと“アマチュアからプロテニスプレイヤーになれた”くらいなんですよ」
松岡修造さん:「今からですか?」
羽生結弦選手:「だから僕自身の身体に関しては、もちろん足首が心配っていうのはもちろんあるんですよ。練習しながらもちょっと、きょう大丈夫かなと思いながらとか、朝起きたら痛いなとかって思うことも多々あります。ただ、特にこの4年くらいですかね、平昌オリンピック終わって4年間、その間にもけがはありましたけれども、これだけ成長できたって、これだけ練習に工夫のしがいがあるんだっていうことを学んだり、実際に上手くなってる自分を考えると、まだまだいけるなって。もちろん瞬発力とか、色んな面に関しては、10代の頃とは比べ物にならないと思うんですよ。ただ、もっと上手くなってるし、もっと上手くなれるなって思います。だってテニスプレーヤーで今40歳ぐらいで、めちゃくちゃうまい人いらっしゃるじゃないですか。フィギュアスケートって、そういう例がないから分かりづらいだけであって、これからさ
らに上手くなれるんだって正直思ってるんですよね」
松岡修造さん:「例えば『心の限界』ってきょう記者会見で。ああそうだよなって『羽生結弦っていう名前が自分自身で重い』って言い方、これも期待、周りの思いですよ、そこの心の限界みたいなのはどうだったんですか?」
羽生結弦選手:「何回も心がなくなっちゃうっていうか、何か“無”としてやってる時とか多分ありました。正直、一番きつかった時は絶対に忘れないんですけど、言いたくないですけど、でもその時は本当に食事もままならなかったですし、正直ほとんど通らなかったですし、食べたくもなかったですし、でもそれでもやっぱり演技している間は、祈りとか、自分が表現したいことだったり、感情とか全部乗ってくれるんですよね。フィギュアスケートには。僕がフィギュアスケートのなかに感情を乗せられるのは、4歳から積み重ねてきた基礎だったり技術だったり、そういったもののおかげなので、もちろん心が壊れてなくなりそうなことは多々ありますけど、今も。だけど、やっぱりスケートやってて皆さんに観てもらったりするのはやっぱり楽しいなって。でも、それまでの過程はつらいし、それまでの過程のなかで自分が言葉を発せられないところで、何か言われてしまったりとか、何も反論できない状態で傷付いたりとかする時が、やっぱり一番きついですね」
松岡修造さん:「北京オリンピックの時に、羽生さんの魅力は、弱さもさらけ出してくれるという『報われない努力』という言葉ですよね。羽生さんの違う面を周りも見たような気がするんですね」
羽生結弦選手:「何かあれのおかげで、羽生結弦っていう完璧みたいな人間が、こういうところもあるんだって思って応援しようと思って下さった方々もたくさんいるっていうのを目にして、やっぱり良かったなと思ったんですよ。僕自身全然、出るつもり全くなかったですし、正直言ってしまえば。もうさっさと4A下りて終わるんだって思ってたんですけど。実際こうやってオリンピックで挑戦して、失敗して、つかめなくて、報われなかったって思える自分がいて。でもそれを応援して下さったり、その姿に何かを感じて下さる方々がたくさんいるという事実が、僕を今でも救って下さってますし、僕もこれからまだまだ頑張って、一緒に走って頂けるのであれば、一緒に夢というものを目指しながら走っていきたいなって思ってます」
松岡修造さん:「僕は正直、聞き間違いだろうと思ったのが1つあったんですよ。『4回転アクセルをやる』って聞いて、は!?と思ったんですよ。どういうことでしょう」
羽生結弦選手:「せっかくここまで頑張ってきたんだから、まだ道半ばなので、ぜひ皆さんと夢を追わせていただけたらうれしいなって思ってます」
松岡修造さん:「大越さんはどう感じていますか?」
大越健介キャスター:「“引退”という言葉は必ずしも正確ではないと思うのですが『過去の自分とか周りの期待とこれからも違うステージで戦い続ける』という言葉がありました。明日から休みなしですか?」
羽生結弦選手:「もともと全然休んでないんですよ、僕。昨日も遅くまで練習してましたし、実際に氷上に上ってない間も、練習したり、イメージトレーニングをしたり、食事も気をつかったり、色んなことをしてます。“引退”っていう言葉とか“ピリオド”っていう言葉に対して、やっぱりマイナスなイメージだったり、寂しさとかもあると思うんですけど。ここからさらにさらに上手くなるんで、期待していただけたらうれしいです」
大越健介キャスター:「世界中からも期待を受けて、色んなことを背負ってきたと思うんですよ。今ちょっと荷を下ろして、ちょっとだけ休みますよって言っても、多分誰も叱らないと思いますけどどうですか?」
羽生結弦選手:「そんな気持ちはさらさらないです。むしろ、ここからどういう演技を見せていくのか、どういう自分を出していくのかっていうことが一番大事な時期だと思っていて、もちろん自分の身体は大切にしたいですし、会見でも言いましたように、自分の心も大切にしていきたい。だけど、ここからどういう羽生結弦になるのかっていうのが一番皆さん気になると思うんですよね。だからこそ、頑張っていきたいです」
松岡修造さん:「みんな多分『お疲れ様でした』とか『ありがとうございました』って声をかけたくなるんですが、それはちょっと違った捉え方なのかな?」
羽生結弦選手:「『お疲れさまでした』って言われるのちょっと悔しいですよね。何か届いてないのかなって。悲しいなとか、寂しいなって思うのは、ちょっと悔しいです。でも、僕の本来の今の気持ちは、正直言って、すごくすごく前を向いていて。皆さんにも、前を向きながら一緒に戦ってほしいなって思ってます」
松岡修造さん:「1つのステージを卒業した。卒業って英語で『commencement』。『commencement』って“新しいスタート”。まさにスタート切ったって羽生さんを見てます」
羽生結弦選手:「僕が16歳の時に修造さんにお話しした新しいスタートを今切れてます」
松岡修造さん:「新しいスタートを皆さんで見守っていきたいと思います」
羽生結弦選手:「頑張ります。よろしくお願いします」
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