◆日本が世界に誇るトップアスリート・イチロー
今でこそ大谷選手が日本を代表するメジャーリーガーとして華々しい活躍を見せていますが、2001年から約16年くらいは『日本人メジャーリーガーと言えばイチロー』と誰もが言うほど圧倒的な存在でした。

そんなイチロー選手は、大谷選手にとって憧れの存在であり「雲の上の存在」でした。

大谷選手が生まれたのは1994年の7月5日。運命的なタイミングだったのでしょうか。その年はイチロー選手が大ブレイクを果たした年であり、オリックス入団3年目となった1994年にシーズン210本ものヒットを放ち、自身初の首位打者に輝いています。
そしてそこから、7年連続首位打者という偉業を成し遂げており、その記録はまだ破られておらず、これから先も破られる事はおそらくないでしょう。

その後、2001年からメジャーリーグに渡るのですが、その頃、大谷翔平少年は7歳。まだ野球を始めていなかったものの、指導者を務める父や、野球をしていた兄の影響もあって、翔平少年の心の中には「憧れのイチロー選手」が根付いていったことでしょう。

メジャーデビュー1年目からイチロー選手は大活躍し、いきなり首位打者と盗塁王のタイトルを獲得しア・リーグ年間MVPを獲得しています。さらに2004年には年間シーズン最多安打記録となる262本のヒットを放ち、デビューから10年連続で200本安打というとてつもない記録を打ち立てました。

大谷選手はそんなイチロー選手に対して憧れの念を抱き、「いつか自分もメジャーリーグで活躍したい」という思いを抱くようになっていました。大谷選手はメジャーデビューイヤーとなった2018年にイチロー選手に相談する機会があり、その当時の思いを次のように語っています。
「憧れの選手と同じ舞台に立っているのは自分でもまだ信じられなかったですね。まさかあのイチロー選手にバッティングを見てもらって、自分が相談するなんてあってはならないと思っていましたから。」

大谷選手のこの言葉には、「小さい頃からずっと憧れていた」というイチロー選手に対する敬意や憧れが溢れています。

ご存知の方も多いかもしれませんが、大谷選手は2018年メジャーに挑戦した当時、オープン戦ではピッチングでもバッティングでもあまり良い結果を残すことができず、自分のプレーに自信を持てなくなってしまったことがありました。シーズンが始まる前の段階でメジャーの環境に適応して結果を残すのは非常に難しいことですが、そんな時にイチロー選手にかけてもらった、忘れられない言葉があると大谷選手は語っています。

「自分の才能、自分のやってきたこと、ポテンシャルとか、そういうのをもっと信じたほうがいい」

メジャーでの自身のプレーに迷いを抱える大谷選手にとって、この言葉は自分を変えるきっかけになったと言います。

イチロー選手のアドバイスもあり、充実したメジャー1年目を過ごした大谷選手について、イチロー選手は2019年3月に行った自身の引退会見の中で、次のように語りました。

「翔平はすごいですよ。彼は世界一にならないといけない選手ですよ」

かのイチロー選手に「世界一にならないといけない」と言わしめた大谷選手の実力は、他のメジャー選手たちと比べても当時から抜きん出ていました。大谷選手のスケールの大きさ、パワーやスピードは、プロの超一流選手たちをも驚かせるほどです。間近で大谷選手のプレーを見た選手たちは口々に「彼のピッチング練習もバッティング練習も、見ていて飽きない」と言います。しかしテレビや映像を通すと、その迫力は薄れてしまうのだそうです。

2018年、二刀流選手としてメジャーデビューを飾った大谷選手ですが、現地のメディアやコメンテーターの中には「二刀流をやめて投手か打者、どちらかに専念すべき」との声もありました。おそらくそれは、シーズン途中で肘の靭帯を損傷してしまい、シーズンの大半を投手として活躍することができなかったからでしょう。

そんな中、イチロー選手は、次のように述べています。

「試合前の準備や練習で、翔平が約160キロのストレートを投げ、本塁打を打っていたら、どんな人であれ、それを見て驚くはずです。そして、それを試合の中で見れば、もう説明もいらない。ただ座ってそれを見ているだけでその凄さが十分に伝わってくる。」

イチロー選手のこの言葉は、二刀流・大谷選手の凄さを感じさせてくれます。メジャーのトップレベルで20年もの間、野球をしてきたイチロー選手が言うことですから、非常に重みがありますよね。2021年、その正しさが証明されました。打って投げて走って、まさに二刀流として大車輪の活躍を見せた大谷選手は、2021年、見事ア・リーグMVPを獲得しました。イチロー選手が「世界一にならないといけない選手」と期待した通り、その実力を全世界に知らしめたのです。

大谷選手とイチロー選手の関係性は、非常に運命的で、心温まる興味深いエピソードがあるので、ぜひ最後までご覧ください。

◆イチロー選手が語る大谷選手の凄さとは?
イチロー選手は、これまで作り上げてきた記録などの功績もさることながら、本質的な思考で超一流の感性を持っています。独占インタビューなどで語る言葉は、時に辛辣な言葉もありますが、非常に本質的なものであり、どれも「さすがイチロー選手。そう考えるんだ!」と思えるような、興味深い発言が多くあります。

そんなイチロー選手ですが、大谷選手のことについては非常に高く評価していました。大谷選手については「誰が見ても世界一の才能と言っていい」と太鼓判を押しています。メディアから大きな注目を浴びながらも自分の実力を発揮し活躍した大谷選手についてこのように話していました。

「スター選手は、正しいときに輝きを見せる。彼が今やっていることは、スター選手とそうでない選手との違いでもある。注目が集まる中ですべてをやっているのだから、ただ信じられない。大谷のどっしりとした心構えが身体的、精神的、感情的な面で、プレッシャーを切り抜ける上での助けになる。僕は、他の人々と同様に大谷がマウンド上、そして打席で素晴らしい結果を残していることにも衝撃を受けている」

このように独特な表現で大谷選手のことを賞賛しています。さらに、実はメジャーでの登板経験があるイチロー選手。しかし、初登板した日には「もう二度とやらない」と誓ったのだといいます。だからこそ、二刀流を実現させる大谷選手を、信じられないと表現していました。
「大リーグで投げる、大リーグで打つということは、それぞれが共に良いパフォーマンスでなければ難しいこと。彼は両方を高いレベルでこなしている。両方でこれまで残している結果はただただ信じられない」

今や大谷選手はたくさんの現役メジャーリーガーたちから高い評価を受けていますが、同じ日本人のメジャーリーガーとして長く第一線で活躍し続けてきたレジェンドの言葉には、やはり説得力がありますよね。野手としてだけでもメジャーで活躍することがどれだけ難しいか、その活躍がどれだけの努力を重ねた結果であるかを知っているからこそ、「信じられない」という言葉が出てくるのだと思います。

◆イチロー選手が語る大谷選手への期待
そんなイチロー選手も、2019年3月をもってグラウンドを去る決断をしました。50歳まで現役でプレーしたいと話していた彼の引退は多くの野球関係者に惜しまれましたが、彼の残した功績は後輩たちの大きな道しるべとなったことでしょう。
イチロー選手の引退試合を見た大谷選手も次のように語っています。
「信じられないような感じでした。プレーする姿はもう見られないですけど、昔から見てきた選手として目標にしていくんじゃないかなと思います」
大谷選手は「目標にしていく」と語りましたが、同時にイチロー選手もまた、あとに続く後輩メジャーリーガーに大きな期待を寄せています。
「大谷翔平と言えば二刀流、無限の可能性、類いまれな才能の持ち主、そんなぼんやりした表現をされることが多かったように思う。比較対象がないこと自体が、誰も経験したことがない境地に挑んでいる凄(すご)みであり、その物差しを自らつくらなくてはならない宿命でもある」
誰も成し得なかった投打二刀流でのメジャー挑戦。反対する意見も多い中、大谷選手は自分のやってきたことを信じて二刀流を貫き、見事な成功をおさめました。思うように結果が出ずに苦しんだときも、イチロー選手からの「自分を信じろ」というアドバイスが彼の背中を支え、ブレない心を保つ助けとなったことでしょう。

イチロー選手は大谷選手の活躍をたたえながらも、これからの活躍に期待をのぞかせました。
「アスリートとしての時間は限られる。考え方は様々だろうが、無理はできる間にしかできない。2021年のシーズンを機に、できる限り無理をしながら、翔平にしか描けない時代を描いて欲しい」
2021年には日本人メジャーリーガーとしてイチロー選手が獲得して以来2人目となるMVPを獲得した大谷選手。そして期待の言葉通り、今年2022年のシーズンも「翔平にしか描けない」投打二刀流の活躍で球場を沸かせています。

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